5)四類・五類感染症
四類感染症は、2003年法改正に伴い、動物由来感染症の中から政令により指定されており、媒介動物の輸入規制や消毒、ねずみ等の駆除等の措置が行われる。五類感染症は2003年法改正前の「旧四類感染症」に相当し、国が感染症発生動向調査を行い、その結果を公開していくことにより発生・拡大を防止する感染症で、省令で指定されている。五類感染症は、感染症を診断したすべての医師が7日以内に都道府県知事等に届ける全数把握の対象と、指定届出機関の管理者が週単位あるいは月単位で都道府県知事等に届ける定点把握の対象に分けられる。以下これらについて原因病原体の種類別に述べる。
(1)プリオン
(1)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)(五類、全数把握)
病原体:異常型プリオン
感染対策: 標準予防策(脳、脊髄、眼組織に特別な注意が必要)
消毒法: プリオンの不活性化には特別な処理法が必要。表51~表53を参照
【 IV-7 プリオンを参照】
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(2)ウイルス
(1)E型肝炎(四類)235)
病原体: E型肝炎ウイルス(Hepatitis E virus: HEV)-ヘペウイルス科、ヘペウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
感染対策: 標準予防策、失禁がある場合などは接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
多くの場合不顕性感染である。潜伏期はおおむね30~40日で、発症すると黄疸、倦怠感、肝腫大、食欲不振を呈する。慢性化しないが、劇症肝炎に発展することがあり、特に妊娠第三期の妊婦においては重篤化する確率が高い。10代~30代に発症例が多くみられる。発展途上国において、飲料水汚染による大規模な集団感染が発生しているが、様々な動物からもHEV様ウイルスが検出されている。日本でもブタからHEVが検出されている。主な感染経路は飲料水を介した糞便-経口感染であるが、感染症例の糞便中に排泄されたHEVが病院内での直接・間接接触により伝播する可能性がある。ただしその頻度はHAVより低いといわれている。
(2)ウエストナイル熱(四類)236~239)
病原体: ウエストナイルウイルス(West Nile virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: 血中ウイルスを対象とする方法
トリを自然宿主とし蚊をベクターとしてヒトへ伝播する。アフリカ、中近東、西アジア、ヨーロッパで発生しているが、1999年より米国でも発生が見られるようになった。発症すると急性熱性疾患となり、多くの場合数日で解熱し自然治癒するが、高齢者などにおいて脳炎をもたらし死因となることがある。輸血による感染、子宮内母子感染、感染動物解剖中の針刺し切創感染が報告されており、臓器移植、母乳による伝播の疑いも報告されている。通常の感染経路は蚊に刺されることであるが、感染症例の血液、体液に注意する。
(3)A型肝炎(四類)240、241)
病原体: A型肝炎ウイルス(Hepatitis A virus: HAV)-ピコルナウイルス科ヘパトウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有しない
感染対策: 標準予防策、失禁がある場合などは接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有しないウイルスを対象とする方法
潜伏期間は平均30日程度で、食欲不振、悪心、嘔吐、不快感、発熱、頭痛、腹痛などの前駆症状の後、黄疸を発症し、疲労感が継続する。ほとんどの場合特別な治療なしに数十日で自然治癒するが、劇症肝炎に発展することもある。成人において比較的重い症状を呈する確率が高い。主な感染経路は糞便-経口感染で、血液感染も成立する。主に魚介類、生野菜、井戸水、排水などを介して伝播するが、環境において長時間感染性を保つため、感染症例の糞便中に排泄されたHAVが病院内での直接・間接接触により伝播することがある。また輸血、注射針の共用によるウイルス血症もある。少数ながら霊長類からヒトへの感染も報告されている。
(4)黄熱(四類)
病原体: 黄熱ウイルス(Yellow fever virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: 血中ウイルスを対象とする方法
サル(森林型)またはヒト(都市型)を自然宿主とし、ネッタイシマカをベクターとしてヒトへ伝播する。アフリカと南米で発生している。一過性の熱性疾患の場合もあるが、黄疸、腎不全、出血傾向をもたらして死因となることもある。通常の感染経路は蚊に刺されることであるが、感染症例の血液、体液に注意する。
(5)オムスク出血熱(四類)242、243)
病原体: オムスク出血性ウイルス(Omsk hemorrhagic fever virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
1943~1945年にシベリアのオムスク地方にていくつかの流行が認められ、1947年に感染患者の血液から初めてウイルスが分離された。オムスク地方以外にもシベリア南部のノボシビルスクやシベリア東部のクルガンおよびチュメンの森林や湿地帯にて流行している。感染経路はウイルスを保有するダニを介してヒトへ伝播するが、近年ヒト感染のほとんどが自然宿主であるマスクラット(Ondatra zibethica)に直接接触することで伝播していると報告されている。
(6)キャサヌル森林病(四類)244)
病原体: キャサヌル森林病ウイルス(Kyasanur Forest disease virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
1957年のインドのカルナタカ地方のシモガにあるキャサヌル森林にて捕獲されたサルにおいて初めて確認された。ネズミなどのげっ歯類や鳥などが自然宿主として知られており、ヒトへの感染はダニが媒介する。ヒト-ヒト感染は現在のところ報告がない。
(7)狂犬病(四類)
病原体: 狂犬病ウイルス(Rabies virus)-ラブドウイルス科リッサウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
典型的には感染したイヌ、ネコの咬創によりヒトへ伝播するが、吸血コウモリ、キツネ、オオカミなど野生食肉動物が媒介動物で、狂犬病ウイルスはそれらの唾液に含まれる。症状は咬創周囲の知覚異常、疼痛、不安感、頭痛、反射性痙攣、嚥下困難、恐水症、昏睡、呼吸困難で致命的となる。現在日本には感染動物がほとんど存在しないと言われ、しかも飼い犬にはワクチン接種が義務付けられている。ただし、輸入動物による感染の可能性が存在する。感染症例には標準予防策を基本とするが、接触予防策の追加も考慮する245)。
(8)サル痘(四類)246~248)
病原体: サル痘ウイルス(Monkeypox virus)-ポックスウイルス科コードポックスウイルス亜科オルトポックスウイルス属、DNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策、接触予防策および飛沫予防策、場合により空気予防策を追加
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
サルなど霊長類に発生するが、1970年コンゴでヒトの感染例が発見され、1996~1997年に同じくコンゴでヒトの大規模な集団発生があった。2003年には米国でガーナからの輸入動物に由来するヒトの集団感染が発生した。発熱、頭痛、背痛、倦怠感などを生じ、痘そうと同様に丘疹や膿疱などを形成する。アフリカにおいて致死率は1~10%と報告されており、痘そうよりは低い。ヒトからヒトへの伝播は痘そうよりも緩慢で、感染症例との接触や飛沫によって伝播すると思われるが、空気感染の可能性も否定されていない。したがって、感染症例には接触予防策および飛沫予防策を行い、場合により空気予防策を追加する。
(9)腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群(四類)249)
病原体: ハンタウイルス(Genus Hantavirus)-ブニヤウイルス科ハンタウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: 血中ウイルスを対象とする方法
腎症候性出血熱は日本・中国を含む東アジア、ロシア、東欧、北欧で発生し古くから知られており、発熱、低血圧性ショック、腎疾患、出血傾向を症状とする。ハンタウイルス肺症候群は1993年以降北米、南米から報告されており、発熱、筋肉痛、肺浮腫、呼吸困難を症状とし死亡率が高い。ハンタウイルスはドブネズミなど野ネズミを自然宿主とするウイルスで、ネズミの尿、糞便を含む塵埃の吸入、またはネズミの咬創による唾液の侵入によりヒトへ感染する。ヒトからヒトの感染はないとされているが、急性期の血液や尿からウイルスが分離されるため、感染症例の血液、分泌物、排泄物に注意を払う。
(10)西部ウマ脳炎(四類)250)
病原体: 西部ウマ脳炎ウイルス(Western equine encephalitis virus)-トガウイルス科アルファウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
自然宿主は鳥であり、蚊がベクターとなってウマなどの哺乳動物へ感染するが、散発的にヒトも感染する動物由来感染症。アメリカ西部を中心にカナダ西部からアルゼンチンまでの西半球で認められている。流行地では蚊が発生する時期や時間には外出を避け、外出する場合の服装は長袖・長ズボンが好ましい。
(11)ダニ媒介脳炎(四類)251)
病原体: ダニ媒介脳炎ウイルス(Tick-borne encephalitis virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
ダニ媒介脳炎ウイルスはいくつかのサブタイプに分類されるが、主なものに中央ヨーロッパダニ媒介脳炎を引き起こす中央ヨーロッパダニ媒介脳炎ウイルスおよびロシア春夏脳炎を引き起こすロシア春夏脳炎ウイルスがある。中央ヨーロッパダニ媒介脳炎は中央・東・北ヨーロッパおよびロシア、バルト海沿岸諸国で流行している。またロシア春夏脳炎はロシア極東地域を中心に流行するが、日本国内では1993年に北海道で感染者を認めた報告もある252)。ヒトへの感染はウイルスを保有するダニに刺咬されることによって生じる。またヤギの生乳を介して感染した報告もある。
(12)チクングニア熱(四類)
病原体: チクングニアウイルス(Chikungunya virus)-トガウイルス科アルファウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
ネッタイシマカやヒトスジシマカなど蚊をベクターとしてヒトへ伝播する。
アフリカやアジアなどを中心に散発的に流行がみられ、レユニオン島では人口の約34%が罹患する大流行が報告されている253)。潜伏期間は3~12日(通常3~7日)で、主な症状は発熱、関節痛、発疹などが高頻度に見られる。重症例では神経症状(脳症)、劇症肝炎が報告されている254)。通常の感染経路は蚊に刺されることであるが、感染症例の血液、体液に注意する。
(13)デング熱(四類)
病原体: デングウイルス(Dengue virus)-フラビウイルス科フラビウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: 血中ウイルスを対象とする方法
ヒトを自然宿主としネッタイシマカなど蚊をベクターとしてヒトへ伝播する。熱帯、亜熱帯地域に広く分布する。不顕性感染の場合もあり、発症しても一過性の発熱、発疹など熱性疾患(デング熱)に留まることが多いが、出血傾向を伴うデング出血熱、ないしデングショック症候群をもたらして死因となることもある。通常の感染経路は蚊に刺されることであるが、感染症例の血液、体液に注意する。
(14)東部ウマ脳炎(四類)250、255)
病原体:東部ウマ脳炎ウイルス(Eastern equine encephalitis virus) – トガウイルス科アルファウイルス属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
自然宿主は鳥であり、蚊がベクターとなってウマなどの哺乳動物へ感染するが、散発的にヒトも感染する動物由来感染症。主にカナダ東部やアメリカ東部で流行が見られるが、キューバなどのカリブ諸国や南米においても感染の報告がある。流行地では蚊が発生する時期や時間には外出を避け、外出する場合の服装は長袖・長ズボンが好ましい。感染患者の血液や髄液からウイルスが分離されることがあるので、血液・体液に汚染される可能性がある場合には手袋、マスク、ゴーグルなどの個人防護具を装着する。
(15)鳥インフルエンザ(鳥インフルエンザH5N1を除く)(四類)256、257)
病原体: 鳥インフルエンザウイルス(avian influenza virus、Genus Influenzavirus Aの一部)-オルトミクソウイルス科インフルエンザウイルスA属、RNA型ウイルス、エンベロープを有する
感染対策: 標準予防策および飛沫予防策、場合により接触予防策を追加
消毒法: エンベロープを有するウイルスを対象とする方法
基本的には鳥の(エビアン: avian)インフルエンザウイルスA型のうち、病原性の高いものによるトリの感染症であり、通常ヒトには感染しないが、まれにヒトにも感染する。
鳥インフルエンザウイルスが、ブタなどを介した遺伝子交雑によりヒトへの感染性を高めて大流行をもたらす可能性が危惧されている。1996年英国で、ヒトの結膜炎症例からA(H7N7)型が検出された。2003年オランダ周辺で家禽にA(H7N7)型感染が流行し、養禽従事者とその家庭で結膜炎が集団発生した。その際ヒトからヒトへの伝播も発生し、またインフルエンザ様症状から重症肺炎になった死亡例も報告された。1997年香港で呼吸器不全によって死亡した3歳の幼児からA(H5N1)型が検出され、さらに死亡者6人を含む18人にA(H5N1)型ウイルス感染が確認された。1999年には同じ香港でA(H9N2)型のエビアンインフルエンザウイルスが2人の小児に感染した。鳥インフルエンザウイルスの感染症例には、通常のインフルエンザと同様、飛沫予防策を行い、結膜炎� �状がある場合などには接触予防策を追加する。
なお、鳥インフルエンザ(H5N1)は2008年5月に公布された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律」により二類感染症に指定されている。
(16)ニパウイルス感染症(四類)258)